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旧車の勲章、シングルナンバーを訪ねてVW 411L

今から40年以上前に登録されたクルマに付く、分類番号1ケタのナンバープレート。いわゆるシングルナンバーと呼ばれるそれは、旧車乗りなら誰しも一度は憧れるもの。今回取り上げるシングルナンバーのVW 411Lは、なんとオーナーが"生まれて初めて乗ったクルマ"なんだとか。現在もグッドコンディションで活躍中のVW 411Lとそのオーナーの数奇な巡り合わせを辿る。

TEXT / 竹内耕太 PHOTO / 山本佳吾
SPECIAL THANKS / 宍戸慎一郎さん
文字通り”生まれて初めて乗ったクルマ”

“お医者さんのクルマ”といえばフォルクスワーゲン。1953年に梁瀬がビートル(タイプ1)の正規輸入をスタートして以来、一般庶民には高嶺の花の外車ではあるものの、贅沢さを誇るのではなく卓越した信頼性を誇る、ドイツ生まれの質実剛健な実用車として日本でも定着し、とりわけ医師の往診の足として、日本全国津々浦々で大活躍していたのだった。

近年”バーンファインド”、すなわち納屋や倉庫で永年眠っていたオリジナル度の高いVWが発見され話題になることがしばしばあるが、それも”お医者さんワーゲン”が多い。余計な改造を受けず、しっかりディーラーでメンテされてきた個体がほとんどだからだ。

さて、東京都内で農家を営む宍戸慎一郎さんの所有する1969年式VWタイプ411Lも、もとは産婦人科の先生が新車で梁瀬から購入して乗っていたクルマである。しかも、宍戸家の3人兄弟みんなその先生の病院で生まれたという、深い縁があった。長男である慎一郎さんは45年前に生まれてすぐ、お母様に抱かれてこのタイプ411に乗り、自宅まで送ってもらったのだ。もちろんその時の記憶は全くないそうだが、文字通りに”生まれて初めて乗ったクルマ”というわけ。

その病院には内科もあり、宍戸さん一家は長年にわたり家族ぐるみのお付き合いをしていた。風邪を引いたらすぐに行く、かかりつけ医だったのだ。宍戸さんの幼少時にも、先生が411で自宅へやって来て、庭に停まっている光景が記憶に残っているそうだ。いつしか時は流れ、先生はご隠居され、やがて大往生された。その病院も閉院することとあいなり、ガレージの中で24年間も眠っていた411の処分をどうしたものかと、ご遺族も思案に暮れていた。よそから、譲ってほしいとの話もあったそうだが、故人の思い出のクルマゆえに手放し難かった。そこで旧知の仲である宍戸さんに、譲り受けてもらえないか、との話が舞い込んできたのだった。

初めてのVW、初めての旧車
そして、初めての外国車

宍戸さんにとっては初めてのVW、初めての旧車、初めての外国車ではあったが、様々な国産車やトラック類には乗っていたため、マニュアルミッション車には抵抗がなく、この話を快諾。ガレージではタイヤが床に固着してしまっていたため、お父様とふたりがかりで短管パイプを組み、4トントラックのクレーンを使ってどうにか引っ張り出したそうだ。

とはいえ411自体のコンディションは良好で、亡き先生が1969年に新車で購入した梁瀬物。走行距離はわずか4万kmで記録簿も残っており、”多摩5″ナンバーもそのまま引き継ぐことができた。せっかくの個体なので、しっかりレストアして末永く乗りたいと考えた宍戸さんは、ネットなどで調べた末、空冷VWのレストアの匠としてVW界でも有名な、栃木県のショップ『BUG SPOT(バグスポット)』に相談し、2010年6月に持ち込んだのだった。

ちなみに、VWタイプ411、および後継の412、通称“タイプ4”は、空冷VW愛好家でも知らない人の多いマイナーモデルだ。タイプ1とその派生モデルだけで展開してきたVW社は、1960年代後半になると数々のライバルに押され、次世代のもっとラグジュアリーなモデルを模索するようになった。タイプ3よりも上位に位置するセダンとして1968年に登場したタイプ411は、空冷水平対向4気筒エンジンのRRレイアウトはキープしながらも、ホイールベースを100mm延長して2500mmとし、広々とした室内空間を持たせた上位モデル。2ドア/4ドアのファストバックセダンとステーションワゴン、3タイプのボディがラインナップされ、宍戸さんの『411L』は4ドアセダンに当たる。フロントサスペンションにVWとして初めてストラット方式を採用して乗り心地を高めるとともに、エンジンは1679ccまで拡大してソレックスのツインキャブを組み合わせ、梁瀬による日本仕様では最高出力76ps/5000r.p.m.、最大トルク12.9kg-m/3300r.p.m.というスペックを達成していた。4速M/Tに加えて3速A/T仕様もあり、さらに69年の途中からはインジェクションに仕様変更された(日本では411LE)。

快適なファミリーカーとしての
ポテンシャル

このようにVWとしては意欲的なモデルだったが販売は振るわず、72年にフェイスリフトしてタイプ412となり、74年に生産終了。73年に登場したパサートへと、その座を譲ったのだった。タイプ411/412の合計生産台数は約37万台と決して少なくはないのだが、当時の梁瀬の努力にもかかわらず日本での販売はごくわずかで、数十台に留まると言われる。

宍戸さんの譲り受けた411は大きな鈑金作業を必要としない状態とはいえ、経年によるサビはそれなりに進行していたため、全剥離から全塗装まで行いリフレッシュ。さらにタイプ4のパーツは世界的に希少で、探して入手するか、あるいは空冷VWその他から代替可能パーツを探したり、難渋を極めたそうだ。また、現代のトラフィックの中でも安心してドライブできるように、走行性能はもちろんのこと、ベバストヒーターおよびクーラーを組み込んで快適性能もしっかり確保している。

タイプ411が宍戸家にやって来てから早10年。月に一度くらいのペースでお子さんたちを乗せて、ショッピングモールなどに往復80~100km程度、高速も含めてドライブしているそうだ。納車時にまだ小さかった息子さんもすでに中学生になっているが、快適なファミリーカーとしての411のポテンシャルが存分に活かされて、みんな快適にドライブを楽しんでいる。最も遠くでは、東京から米沢まで走っていったこともあるという。

「次はリアのショックにビルシュタインを入れようと準備していますが、適合パーツの入荷は数ヵ月後になりそうです(笑)。何台かクルマがある中で、タイプ4は、乗る順位としてはどうしても一番最後になります。でもだからこそ、乗りたいと思った時にはすぐ乗れる状態をキープできるように、できる限りのことはしておこうと思っています」

フォルクスワーゲン 411Lとは

1968年に登場したVWタイプ411は空冷VWのプラットフォームを元に全長4525×全幅1635×全高1485mmへ大型化したファストバックセダン。72年からは逆スラントノーズのタイプ412へと進化し、74年に生産を終了している。

宍戸さんが生誕直後に乗ったクルマ。今はお子さんたちを乗せている。

丸目4灯ヘッドライトはLED化済み。

タイヤは前後とも155SR15。思い立った時にはいつでも乗ることが出来るように、冬場はスタッドレスタイヤに履き替えている。

タイプ4専用1.7リッター・エンジン。形状はタイプ3のエンジンに似ているがほぼ別物。

フロント下部にクーラーのコンプレッサーを取り付け、トランクのフロアは木製シェルフで調整している。

今や世界的に希少モデルとなっているタイプ411だが、マイナーモデルゆえパーツも少なく、オリジナルに忠実に綺麗にレストアされ維持されている個体は貴重だ。宍戸さんの大きな納屋の中で、可動状態で保管されている。

初代オーナーである産婦人科の先生が69年に梁瀬でタイプ411を購入した時の車検証と記録簿がそのまま残っている。写真は24年間眠っていたガレージから引き上げた時の物だが、ゴム類以外は綺麗な状態だったことが分かるだろう。

ウッド調ダッシュパネルなどオリジナルが残っていたインテリア。夏場にも我慢することなく快適に乗れるよう、クーラーを装着している。

シートもクリーニングのみでOK。

足元の広い後席にはセンターアームレストが備わる豪華な仕様だ。

冬場のドライブ用にベバストヒーターを装着し、吹き出し口はウッド製の自作だ。