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理想はセブンからミジェットへMG MIDGET Mk.2

英国自動車趣味の原点ともいえる戦前のオースチン・セブンと、1960年代生まれのMGミジェット。それぞれの立ち位置と、自分との付き合い方を考える。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 山本佳吾
SPECIAL THANKS / フライングスコット(https://www.flyingscott.net/), 関戸幸樹(1929 Austin Seven Special)

理想はセブンからミジェットへ

取材をお願いしていたのはスカイブルーのオースティン・セブン・スペシャルの方だったのだが、岡崎のフライングスコットを訪ねてみると、たった今売れてしまったという。

一生持っていられるような決定的な趣味車として、レーサー風のアルミボディを纏ったオースティン・セブン・スペシャルは最適な1台に思えたのだが、フライングスコットの宮地正史さんの意見は違った。

「ヒストリックカー好きはだんだんと愛車の年式を遡っていって最後はヴィンテージに辿り着く、みたいな世界観を持っている人がいるけれど、でもけっこう歳がいってからセブンみたいなクルマに乗ると、けっこう辛いと思う。セブンは若いというか、まだ体力のある人向けのクルマじゃないかと思うんだよね」

確かにセブンのボディはミニマムで、タイヤはバイクのように細く、そしてエンジンも非力だ。スーパーチャージャーを付けディスクブレーキに換装していても、現代の交通の流れに乗るのは容易ではない。65歳以上になって憧れのオースティン・セブンに辿り着いたとしても、思い描いていたような趣味生活は楽しめないかもしれない。

「戦前のベントレーとかライレーとかならパワーもあるし、クルマ趣味の終着駅みたいな貫禄があるよね。でもセブンというクルマは位置づけが違うんじゃないかな」

現役当時のセブンはイギリスの一般人に広く普及したアシ車の代表格であり、それがいつしかジャンクヤードに積み上げられ、再利用された結果として多くのレーシング・コンスト ラクターやドライバーの原点となったモデルである。イギリスの自動車史にとっては重要な1台だが、クルマ趣味という観点ではもうひとつの解釈も存在する。伝統的な個体を勝手にモディファイすることは許されないが、しかしアマチュアが作り上げたセブンのスペシャルならば、オーナーの好みに合わせて自分でいろいろといじれる自由度の高さがある。まさに 若者が創意工夫して乗るヒストリックカーという考え方も成立するのである。

「ベテランになってもずっと乗っていられるクルマという意味では、MGミジェットの方が最適だと思う。このクルマはイギリスから入れたばかりなんだ」。そう言って宮地さんが指さした先には、目鼻立ちのはっきりとしたミジェットが佇んでいた。色はブリティッシュ・レーシング・グリーンで、フォ グやスポットランプ、そしてイギリスのナンバーが懐かしさを醸し出す。まるで’60年代のイギリスからタイムスリップしてきたような、そんな雰囲気の持ち主だった。

同色に塗られたアシュレーのハードトップも付いており、クーペ風のシルエットになっている点も個性的だ。でもフライングスコットと言えばロータスやジネッタのようなメイクスのイメージが強いショップであり、ミジェットはちょっと珍しい?

「佇まいがいいな、と思って。あと来歴がしっかりしているというのも気に入った。ファーストオーナーの写真とか、レストアの記録とか色々とファイルされて付いてきたんだ」

そういって宮地さんが見せてくれたモノクロ写真には、確かにGDA629Cのレジストレーションを掲げたミジェットが女性オーナーとともに写っていた。レストアに関してもかなりしっかりとやった記録がちゃんと残されている。ヒストリックカーは一種のアンティークとしての意味合いもあるので、こういった個体の歴史は重要だ。

「ロングドライブとかラリーイベントもこなせるし、普段使いだって問題なし。さらにこのクルマはオープンとクーペのふた通りの楽しみ方ができる。例えばこれがクルマ趣味の最後のクルマだったとしても、とってもバランスが取れているんじゃないかな。雰囲気も『最近クルマ趣味はじめました!』みたいな勢いがなくて、 少し枯れた感じがいい」

今回の MGミジェットはちょっとした後付けのモディファイを除けばフルオリジナルに近い状態が保たれている。こういうクルマを、白髪が混じりはじめた紳士がさらりと乗っていたら、その人の背後にそれなりの車歴を想像してしまう。「かつては色々賑やかなクルマにも乗ったけれど、今はもうこれ 1台でいいんだ」といった達観したストーリーが見え隠れするのだ。

「枯れた、という意味ではマーク2の1100ccエンジンもちょうどいいと思う。マーク3以降の1275ccユニットより落ち着いているし、でも1リッターよりは遥かにパワフル。山道でも不満はないんじゃないかな」

理想を言えば40代でオースティン・セブンに目覚め、手をオイルで真っ黒にしながら楽しんで、いよいよ定年、もしくはセミリタイアといったタイミングでMGミジェットに乗り換える。趣味車は一般的なモノを遥かに越えた愛着が生まれるものなので、そんなに計画的にはいかないかもしれないが……。ともあれ、末永く付き合う1台は少し枯れた、というか瀟洒なクルマがお勧めである。

ミジェットやMGBのハードトップ・メーカーとして知られるアシュレーだが、スプリジェット用のノーズカウルも存在しており、アシュレーGTというコンプリートカーもリリースしていた。なだらかにまとまるリアのシルエットと、実用的なトランクリッドによって高い人気を誇った。

MG MIDGET Mk.2

320万円(取材時)
他のヒストリックカーと同じように近年若干値を上げているMGミジェットだが、取材車のオリジナル重視のコンディションを考えれば非常にリーズナブルといえる。アシュレー・トップの小さく開くトランクから見えるグレーのパイプは幌骨である。

ロングホイールベースのA 型フレームにアルスター風のアルミニウムボディを組み合わせた1929年製のオースティン・セブン・スペシャル。かなり丁寧に作りこまれた個体で、様々なヒストリックカー・ラリーに参戦してきたヒストリーを持っている。