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今でも乗れる! キューベルワーゲン!!TYP 82 KÜBELWAGEN

戦場で使われる、いわゆる軍用車は、質実剛健ながら機能に裏付けされた美しさのようなものも感じられる。フォルクスワーゲン・ビートルの前身として、大戦中のドイツ軍が使っていたキューベルワーゲンをじっくり見てみよう。

TEXT / 中島秀之 PHOTO / 横澤靖宏
SPECIAL THANKS / カマド(https://www.k-m-d.co.jp

今でも乗れる! キューベルワーゲン!!

いきなり昔話で恐縮だが、筆者(もうすぐ還暦)が小学校高学年だった1970年代初頭、どういう経緯かは忘れてしまったが、ある時タミヤの1/35スケールの戦車(T34-85)のプラモデルを、友達の家で作ることになった。初めて塗料を借りて筆塗りしたその戦車のカッコよさに、強く心を惹かれてしまい、以後自宅近くの模型屋さんに通い始めるようになる。

すると、戦車のアクセサリーのような、兵隊や軍用車のプラモデルを売っているではないか。それがタミヤの1/35ミリタリー・ミニチュア・シリーズとの出会いで、当時まだ十数点しかなかったと記憶している。価格は80円から数百円と安く、お小遣いでもなんとか買える。これは面白い! とのめり込むようになり、中学校に入るとジオラマを作ったりするのだが、それはまた別の話。重要なのは、最初に買ったのが、ドイツ軍の小型軍用車キューベルワーゲンだったということだ。

ビートルはもちろん知っていたし、アメリカのジープも知っていたが、この変わった形のクルマが、第二次世界大戦で数多く使われていたのを知り、俄然興味がわいたのだ。説明書の通り塗料も揃えて、3色迷彩に筆塗りしたのも懐かしい。それ以来、いつか運転してみたいと思っていたのだが、なかなかその日はやってこなかった。

それが今回、様々なご縁があって、本物のキューベルワーゲンを運転できることになった。静岡県御殿場市にあるスズキのディーラー「カマド」は、様々な軍用車のレストア・販売でも有名で、「社長の小部屋」という小さなミュージアム(現在移転のため閉館中)まであり、ここには水陸両用のシュビムワーゲンや旧日本陸軍のくろがね四起(九五式)も展示されている。こちらにお勤めの木下智司さんがキューベルワーゲンを所有されており、取材を快諾してくださったのだ。

そもそもキューベルワーゲンは、戦後世界中で大ヒットとなるVWビートルを軍用に転じたものだった。ヒトラーによる国民車構想のために、フェルディナント・ポルシェ博士が設計し、1938年には完成していたKdFワーゲン(VW38)がビートルの原型で、これを元にオープントップの軍用車へと仕立てたのがTyp 82ことキューベルワーゲンだった。キューベルとはバケツの意味で、ブリキのバケツのようなボディだからこう呼ばれたようだ。

1940年春から量産されたTyp 82は、1945年に終戦となるまで基本設計を変えずに、5万台以上が生産されたと言われている。ラジエターを持たない空冷エンジンと、2WDながらトラクション性能に優れたRR方式のお陰で、Typ 82は酷暑のアフリカ戦線から、極寒の冬の東部戦線まで、あらゆる戦場で活躍したのだった。

現車は1944年11月生産。当時陸軍はダークイエローが標準だが、これは空軍のグレーに塗られている。

メカニズム的には、ビートルとほぼ変わらない。車体は、中央にチューブ型バックボーンを持つプラットフォーム・シャシーにプレス製ボディを組み合わせたもので、サスペンションはフロントがダブルトレーリングアーム、トーションバースプリング、筒型ダンパーで構成され、リアはトレーリングアームとーションバースプリング、レバー式ダンパーで構成される。ただし最低地上高を確保するため、後輪にはホイールリダクションギアが備わり、更に独特なシステムによるポルシェ式LSDも採用されていた。

生産時期により初期型(~1942年春)、中期型(~1943年春)、後期型(~終戦まで)があり、細部が異なる。またリアに搭載される空冷水平対向4気筒OHVエンジンは、中期型までが985cc/23.5psで、後期型は1130cc/25psとなった。ミッションはノンシンクロ4速、ブレーキはワイヤー式4輪ドラムだったが、車重は725kgと、非常に軽量だった。

さて木下さんのキューベルは1944年式の後期型で、十数年前にカマドでレストアし、お客さんに販売したものだったそうだ。木下さんはキューベルに憧れて、25歳の時にインターメカニカ社製のレプリカを購入されたそうだが、6年程乗ったところで手放してしまった。だがその直後、キューベルのオーナーが手放すと聞き、ローンを組んで購入されたそうである。

インターメカニカがパイプフレームにFRPボディ、1.6リッターエンジンで油圧ブレーキだったのに比べて、本物に乗った時は、「全然違う!」と思われたそうだ。「エンジンは非力で坂を上らないし、ボディ剛性はない。一番驚いたのはワイヤー式のドラムブレーキが全然効かないことでした」と木下さん。それでも「本物を持っているという所有感には満足でした」とのこと。

戦前の軍用車でありながら、予想以上に普通に運転できることにびっくり!

さぁでは、キューベルワーゲンを運転させていただいた印象を記しておこう。まず車内は意外なほど余裕があり、4人なら余裕を持って座れるし、後席背もたれの後ろには広い荷物スペースもある。シートは金属製ネットの上に薄い座布団が置いてあるような構造だが、それでも意外に快適だ。

ミッションはビートルのシンクロ付に換装されているそうで安心したが、2速はシンクロが弱いのか入れにくかった。ただそれ以外は、予想以上に普通に運転できた。エンジンは排気量が小さいためパワーはないが、平坦な道ならそれほど気にならない。ブレーキは確かにあまり効かないが、一人乗車だったのでそれほど怖い感じはしなかった。乗り心地は軍用車というイメージからすればかなりソフトな印象。感心したのはステアリングの切れ角が物凄く大きいことで、命がかかった戦場では小回りが効くことは重要だったのだろう。短時間ではあったが、長年の夢が叶った試乗だった。

なお、現車はオリジナル度が高い貴重な個体だが、木下さんは今、チェコのKdfオスニチェ社で本物のシャシーを使い、新品ボディパーツでレストアした、リファービッシュ・キューベルワーゲンへの買替えを予定している。オリジナル度は低くなるが、1.2リッターエンジンや12ボルト電装、油圧ブレーキなどを選べば、現代の路上で使いやすくできるそうだ。「新車のキューベルがどうだったかを知りたくて、買替えを決めました」と木下さん。オーダーしたのはダークイエローの後期仕様で、納車を心待ちにされている。

キャンバス製の幌は、ベルトを金具に通して固定する。サイドウインドウも備わるが、視界が遮られるため、戦場では使われなかったようだ。

エンジンを守る大型アンダーカバーを装備する。エキゾーストは左右2本出し。中央の穴はクランク棒用。反射鏡とバックライトは後付け。

テールライトは本来ナンバープレート上の四角いものだけ。丸いライトは戦後の西独軍用。下半分を閉じた状態は、4つの小さなライトが後方から見える数で車間距離がわかったそう。

テールライトの上半分を閉じた状態だと、やや明るい。

ウインドシールドは前に倒して固定できる。スペアタイヤ横は給油口。

タイヤは5.25-16サイズ。上の数字は空気圧だが、現在と単位が異なる。

サイドウインカーは後付け。古いボッシュのスポットライトを備える。

現車のヘッドライトは古いマーシャルを装着していた。戦時中は明るさを制限するカバーが付けられた。牽引用フックには剛性を確保するための横バーが備わる。

上空の敵機に場所を教えないための灯火、ノテックライト。照度はかなり暗い。

エンジンは当時のオリジナル。ファンカバーに旧いVWマークが入る。

極めてシンプルなインパネ周り。インパネの裏側に燃料タンクが見えているが、特に防弾用の補強などはされていない。

メーターは80km/hまでの速度計のみ。あとは各種スイッチがあるだけ。意外だが始動にキーは必要だ。

インパネ下にジェリカンを入れておけるスペースが設けられている。

ドアはこのように、中央の支点前後が開く。ドアの下にジャッキ用の穴がある。

金属メッシュが張られたパイプフレームの上に、薄いクッションを置いただけのようなシート。スペース的にはかなり余裕がある。

リアシートも同様の作りながら、まずまず快適。左側の下にバッテリーが備わる。

室内にあるバーに装着された四分割のものは、乗員の小銃を立ててロックできるステー。

後席背もたれを倒すと、エンジンルームの隔壁との間に、予想外に大きな荷物スペースがある。

SPECIFICATION
1944 TYP 82 KÜBELWAGEN
全長×全幅×全高:3740×1600×1650mm
ホイールベース:2400mm
トレッド(F/R):1356/1360mm
車両重量:725kg
エンジン型式:空冷水平対向4気筒OHV

総排気量:1131cc
最高出力:25ps/3300r.p.m.
最大トルク:7.6kg-m/2000r.p.m.
サスペンション(F/R):トーションスプリング/トーションバー
ブレーキ(F&R):ワイヤー式ドラム
タイヤ(F&R):5.25-16

OWNER/木下智司さん

株式会社カマドでメカニックなどを担当する傍ら、ミリタリー系も担当。B310サニーとキューベルワーゲンを長年の相棒とする。ミリタリー系は歴史を調べるのも大好きだそうだ。

TOPICS

私設ミュージアム「社長の小部屋」はこんなところ

「社長の小部屋」には、カマドの小林雅彦社長が集めたり、レストアした軍用車両などが展示されている。現在移転準備のため閉館中だが、再開されれば、申込をした上で見学できるはずだ。展示車両のくろがね四起は、クラウドファンディングによりレストアされたが、現在小林社長は、イギリスで修復中の九五式軽戦車を日本に買い戻す運動、更には防衛技術博物館の設立準備にも携わられている。
https://www.k-m-d.co.jp

キューベルを元に4WD化し、水陸両用としたのがTyp 166シュビム・ワーゲン。防水性を高めるため完全モノコックボディを採用している。

旧陸軍の要請により日本内燃機が開発、1936(昭和11)年から量産したのが、くろがね四起こと九五式小型乗用車だった。1944(昭和19)年までに4700台程生産されたが、現車は貴重な前期型。クラウドファンドにより、カマドで修復された。

この九五式軽戦車はアメリカのTVドラマ「ザ・パシフィック」のために、オーストラリアで製作されたレプリカ。来日後修復の上、正確な塗装が施された。