欧州ハイルーフサミット70年代欧州商用モデルたちの饗宴

2020.07.10 ルノー(RENAULT) 70年代 フィアット(FIAT) ヒストリー クラシックカー 商用車 フォルクスワーゲン(VOLKSWAGEN) エスタフェ(ESTAFETTE) タイプ(TYPE 2) 238
日本であまり見かけない欧州出身の商用車。しかも1970年代のハイルーフ仕様ならなおのこと珍しい。そんな貴重な欧州ハイルーフバン3台を集めて、商用車ならではの魅力とディテールをジックリと観察してみよう!
TEXT:遠藤イヅル PHOTO:宮越孝政

SPECIAL THANKSエスタフェ(イイダタコス:www.facebook.com/iida.tacos)/レイトバス(FLAT4www.flat4.co.jp)/フィアット238H&Tscc-g.jp

はたらくクルマであるバンやトラックは、一般的には地味な裏方だ。人々の生活を支え、街の風景の一部としてごく当たり前に走り回っているが、注目されることはない。スポーツカー、定番ヴィンテージカーなどと違って、後世に残ることなく消えていくことが多いのはご存知のことだろう。またイニシャルコスト・ランニングコストの低さが重要視されるため、日本では海外の商用車が輸入されることは、ほぼない。商用車ベースの『ルノー・カングー』は特殊な例といえる。そのため、古い商用車が現代まで残っているのはとても珍しいことなのだ。

そんな現代の20203月某日、某所に3台の貴重な70年代欧州製商用バンが集まった。いずれもスペース効率を極めたような合理的設計を誇るクルマだ。国柄や設計思想の違いが明確に出ていた時代のバンなので、乗用車以上に国ごと・メーカーごとの個性が表れているのも興味深い。さらに、この3台はハイルーフという共通項を持っている。ただでさえ荷物を積める商用バンで、さらに30㎝近く屋根を高くしたハイルーフバンが集まることは極めて稀だろう。日本では考えられないほど貴重な光景は、まさに欧州ハイルーフサミットと呼ぶにふさわしい。それではそろそろ、サミットの様子をご覧いただこう!

EUROPEAN HIGHROOF #01

かわいい顔して合理的設計を持つ商用車 1974 RENAULT ESTAFETTE

前述の通り欧州出身の商用車は、日本の路上ではなかなかお目にかかれない。しかし、とある市場で少なくない台数が日本に輸入された車種がある。その一つが移動販売車の『シトロエンHバン』だ。Hバンがこの用途で人気を博したのは、FFゆえの低い床がもたらす高く広い車内と、置くだけで絵になる外観だった。

そんな中、以前とある店で食べたタコスの味が忘れられず、いつかはタコス屋を開きたいという夢を持っていた飯田貴昭氏は、ケータリングカーを作って移動タコス屋を開こうと考えた。そのベースとして目に留まったのは、Hバンではなく『ルノー・エスタフェ』。そこで飯田氏は、ヴィンテージ商用車を数多く移動販売車に仕立ててきた『オールドカーズマーケット』に依頼してエスタフェをカスタマイズ。2019年春、晴れて所沢市内で『イイダタコス』の初営業を実現した。現在は範囲をさいたま市などに広げ、週末のイベントに出店している。

飯田氏がこのクルマを選んだ理由は、ハイルーフなので車内に立てることと、フロアが低いのでお客さんとの目線が近いことだったという。日本で多く見られるFR商用車ベースの移動販売車では店員が立つ位置が高いため、客を見下ろしがちになってしまう。実際に飯田氏にエスタフェの車内でタコスを作ってもらったところ、目線は確かに近く、フレンドリーな雰囲気を増してくれる。低い床を実現したのは、エスタフェが後輪を駆動するドライブシャフトを持たないFFゆえ。欧州ではキャラバンのワイド・ロングより大きなモデルでもFFを採用することが多いが、エスタフェと同等の積載量の国産バンで、FFの車種は『日産NV200』以外、皆無に等しい。

1950年代のルノー商用バンには積載量300kgの『ジュバカトル』か、1トン~1.4トンの『1000kg/1400kg』しかなかった。そこでルノーはRRサルーン『ドーフィン』のエンジンを前後逆にして新設計のトランスミッションを与えてFF化、Hバンに対抗できる商用車を完成させた。それがエスタフェで、1959年に登場した。

愛嬌あるデザインだが、運転席側は乗降性に優れたスライドドアを採用するなど、設計は冷徹なまでに合理的で、驚異的に低いフロアによって積載性も抜群。合理性や実用性の高さに、フランス車らしいお国柄が表れている。登場時845ccだったエンジンを1.1リッター1.3リッターと順次拡大、フロントグリル変更などを実施した以外、ほぼ登場時の姿を保ち続けたまま、1980年に生産を終えている。ちなみに後継車は『トラフィック』だ。

運転してみると、什器を積んで重たいはずでも走り出しが軽いこと、乗り心地が良いことに感心する。購入後のメンテは本誌でもおなじみの『オートポワルージュ』が行なっていることもあって、現在の調子は抜群のようだ。

メキシカンカラーの組み合わせを淡いトーンにして塗った、イイダタコスのエスタフェ。これからもかわいい姿と美味しいタコスで、多くの人を笑顔にしてくれることだろう。

レトロで愛嬌に溢れるエスタフェ。エンジンを縦置きするFFで、バン・乗用・トラック・ハイルーフなど、様々なバリエーションがあった。1959年から80年までの長きにわたり生産が行われた。
天高くそびえるハイルーフ。ノーマル比で350mm高い。
運転席側のドアはスライド式。ドアノブがかわいい。
フロントのウインカー類はVWタイプ2のパーツに交換。製造時期によってグリ ルが異なり、この開閉可能タイプになるのは1973年から。
3穴ホイールがフランス車感をアップ。
シンプルだが座り心地の良いシート。表皮はセンスよく張り替え済み。
棚風に造作されたダッシュボード。プリミティブな魅力がいっぱい。水温計を追加している。
エンジンは運転席・助手席の間に鎮座。至極簡単に外れるカバーを外すと、小さな1.3リッターOHVエンジンが現われる。
移動販売用に新たに開けられた、跳ね上げ式のサービスリッド。運転席側スライドドアが収納される仕組みがよくわかる。
助手席側の開閉は一般的なヒンジ式。ラゲッジ部のスライドドアは本来のもので、こちら側のみに備わる。
リアハッチは上下分割で、下側はさらに観音開きという凝った構造。

SHOP INFORMATION

イイダタコス

かわいい色のルノー・エスタフェで、本格的で美味しいタコスの移動販売を行う「イイダタコス」。パクチーやサルサソースなどのトッピングを無料で楽しめるタコスのほか、タコライス、フライドポテトなどのサイドメニューも充実。週末に所沢・さいたま市界隈で出店中だ。出店情報はFacebookページをチェック!
www.facebook.com/iida.tacos

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