自慢の2台は後席のあるバブルカー!激レアスモールカーとの愉快な生活

スモールカー BMW ドイツ(GERMANY) 50年代 クラシックカー 600 ツェンダップ(ZÜNDAPP) ヤヌス(JANUS)
日本ではまず見ることがない、激レアなスモールカーを所有するオーナーさんとその愛車をご紹介しよう。お持ちのクルマはいずれも、過去ティーポ誌でご紹介したことのないものばかり。興味津々の2台の詳細をご覧いただこう!
TEXT:中島秀之 PHOTO:奥村純一 SPECIAL THANKS:入佐俊英さん

BMW 600 #1959

前から見るとイセッタそのものだが、後席を設けるためボディは延長され、後輪は普通の位置に配される。それでも前席のドアはイセッタと同様、前に開く。エンジンは後車軸前からリアに移動。リアのオーバーハングが少し長い。

SPECIFICATION
BMW 600
全長×全幅×全高:2900×1400×1375mm
ホイールベース:1700mm
車両重量:550kg
エンジン形式:空冷水平対向2気筒OHV

総排気量:582cc
最高出力:19.5ps/4500r.p.m.
最大トルク:3.9kg-m/2800r.p.m.
サスペンション(F/R):スイングアーム/トレーリングアーム
ブレーキ(F&R):ドラム
タイヤ(F&R):4.80×10(取材車)

ZÜNDAPP JANUS 250 #1957

真正面から見ると古い商用車のようだが、真横はほぼ前後対称の形状を持ち、前後同一のドアがガバッと開く。その割にフェンダーの切り欠きは前後で異なる。ウインドウは前後の三角窓のみ開閉可能。真後ろも真正面とほぼ同様。

SPECIFICATION
ZÜNDAPP JANUS 250
全長×全幅×全高:2890×1410×1400mm
ホイールベース:1825mm
車両重量:425kg
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
総排気量:247cc

最高出力:14ps/5000r.p.m.
最大トルク:2.1kg-m/4800r.p.m.
サスペンション(F/R):トレーリングリンク/スイングアクスル
ブレーキ(F&R):ドラム
タイヤ(F&R):4.40×12

OWNER

入佐俊英さん

元エンジニアで、電気系の修理などはお手の物という入佐さん。今回の2台とM3の他、T型フォードやダットサン211も所有する。

展示する際に使う小道具を付けていただいた。「今日は自走ですか?」と聞かれたら、「手で提げて来ました」と応えるのがお約束。
これもイベント用の小道具。今の子供はゼンマイを知らないため「これ何?」と聞かれるそう。

伝統のフラットツインをリアに積む4人乗り BMW 600 #1959

これまでティーポ本誌では、バブルカーやキャビンスクーターと呼ばれる、1950年代頃に作られた、超スモールカーを数多くご紹介してきた。

第二次大戦後の混乱した状況の中、いわば「代用自動車」として生を受けたバブルカー。だが1950年代も終盤になると、一般的な乗用車へと人々の興味は移っていく。その「時代のはざま」で、ごく少数ながら後席のあるバブルカーが世に送り出されていた。

神奈川県にお住まいの入佐俊英さん(60歳)は、この希少な「後席のあるバブルカー」を2台も所有されている。共にユニーク極まりないメカニズムを持つ、2台をご紹介していこう。

まず赤と白のクルマは、1959年式BMW 600だ。BMWはイタリア・イソ社が開発したバブルカー、イセッタのライセンスを取得、自社のオートバイ用空冷単気筒OHV 256ccエンジンを搭載し、BMWイセッタとして1955年に市販した。その後298cc仕様を追加し、翌1956年にはウインドウ形状などを変更。イギリスでも生産されるほどの人気となった。

左側面にドアはなく、左側のサイドウインドウは、前後トレードオフでスライドする仕組み。現車は北米仕様のため、丸パイプ製の頑丈なバンパーと、一回り大きなヘッドライトを備える。
右側面のみ後席用のドアが備わる。それほど大きくはないが、乗り降りはしやすい。ドアのウインドウは開閉しない。
BMWイセッタとは異なり、立派なインパネがドア裏側に備わり、奥にスペアタイヤも搭載。またイセッタでは左端にあるシフトレバーとサイドブレーキレバーは中央に配置される。
フロントシートはイセッタ同様のベンチタイプだが、シフトレバーがあるため座面中央部分が僅かに凹んだ形状となっている。
リアシートもフロントシートとほぼ同じ形状だが、きちんと大人が2名座れるスペースがある。
メーターはイセッタより豪華な横長タイプで、速度計、オドメーター、警告灯と、BMWマークを備える。
ペダルはステアリングシャフトを挟んで、ブレーキとクラッチが配置される。

これに続くモデルとして、BMW 600は1957年8月に発売された。内容的には、イセッタのボディ後半を拡大して後席を設置。右後方にドアを追加し、オートバイのR67用空冷水平対向2気筒OHV 582ccエンジンを与えたものと言えた。エンジンはイセッタとは異なりリアに置かれ、デフも装備。リアサスペンションはセミトレーリングアームを採用していた。

だが前述したように、より本格的な乗用車を求める声が高まり、BMWは1959年に、600のメカニズムを流用した後継車700を発売。600は僅か2年の間に、3万5千台弱が生産されただけに終わった。

入佐さんの600は1959年製の北米輸出用モデルで、前後に頑丈なバンパーを備えている。入佐さんは元々クラシックカーがお好きだったわけではなく、今から20年程前、お仕事の関係で繋がりのあるBMWのクルマを買おうと、中古の5シリーズを手に入れられたそうだ。その後何台か乗り継ぐうちBMWの楽しさの虜になり、E30 M3スポーツエボリューション(現在も所有)を入手される。更にBMWの展示会に出かけた際、BMWイセッタを初めて見て、その可愛さにすっかり惚れ込んでしまったそうだ。

そこで2008年頃、ネットオークションでレストアベースの1台を入手される。ただこの時は、イセッタと思って買われたそうで、後に600だとわかったとのこと。3年程レストアしようと試行錯誤されたそうだが、なかなか捗らず、諦めかけたところに、岩手のコレクターの方が同じ600を手放すという情報が入り、2011年夏にこれを購入された。このため1台目は部品取りになったとのことだ。

この2台目の600は好調で、様々なクラシックカーイベントに入佐さんは参加されるようになる。すると子供たちに大人気で、多くの賞を獲得されたそうだ。更にバブルカー仲間が増え、情報を共有するうち、入佐さんには次なる目標ができたのだった……。

右側面にのみリアドアが存在。前後で全く異なるクルマのようだ。
空冷水平対向2気筒600ccエンジンをリアに搭載。その上に燃料タンクがある。エンジンルームの眺めは、空冷VWかポルシェのよう。
ホイールキャップ付純正スチールホイールに、4.80×10のバイアスタイヤを装着。
大きなウイング付のBMWマークがフロントに備わる。
これまでのイベントで獲得したトロフィーや盾。600は人気投票で上位になることが多いそう。

TOPICS BMWイセッタの変遷

戦後BMWの苦境を救ったのがBMWイセッタの成功だった。イソ社から版権と工作機械を取得し、独自のエンジンを搭載して1955年から生産。当初イソと同じウインドウ形状だったが、1956年に独自の形状にマイナーチェンジ。256ccと298ccエンジンがあった。

前期型。前側の三角窓のみ開閉可能で、ヘッドライトケースが長い。
リアウインドウはサイドまで回り込んだ形状で、面積が大きい。
後期型。サイドウインドウの形状が変更され、スライド式で開閉できた。ライトケースは小さめ。
リアウインドウは小さくなり、ルーフ部分の面積が拡大した。

ほぼ前後対称のボディにミッドシップの異色車 ZÜNDAPP JANUS 250 #1957

入佐さんの次なる目標とは、BMW 600のライバル的存在ながら、ごく少数が生産されただけに終わった幻のバブルカー、ツェンダップ・ヤヌスを手に入れることだった。

ツェンダップは1921〜1984年に存在したドイツのオートバイ・メーカーで、ドイツ語の発音としてはツンダップの方が近い。第二次大戦中にドイツ軍が使用した、サイドカー用バイクKS750が有名で、戦後はベラと呼ばれるスクーターなどが人気となった。

このツェンダップ社が1957〜1958年に生産したバブルカーが、ヤヌスだった。ヤヌス(古代ローマの双面神)はその名から想像されるように、前後に二つの顔を持っている。どういうことかと言えば、イセッタと同様車体前面にドアがあるのだが、同じ形状のドアが後ろにもあるのだ。このため後席は後ろ向きに座ることになり、前席と後席の間にエンジンが搭載されている。つまり、市販車としては世界初のミッドシップ車だったことになる。

前後に同じ形状のドアを持つヤヌス。ヘッドライトは小さめで独特の表情を持つ。映画カーズ2のザンダップ教授のモチーフでもある。
後席はこのように後ろ向きの配置で、後方から乗り込む。
前後シートのクッションを外して一列に置くと、フルフラットになる。大人が横になれるので、休憩には便利!?
ステアリング奥に小さなメーターナセルを備えるだけのインパネ周り。ドアの裏側は網が張られた小物入れ。レバーが左にあるシフトは、バイクに近いシーケンシャル・タイプ。サイドブレーキレバーは左前にある。ケンシャル・タイプ。サイドブレーキレバーは左前にある。
シートはベンチ式で、一見同じようだが、タイヤの切り欠きにより座面は前後で形が異なる
扇型のVDO製スピードメータ―。その上にシフトのインジケーターがある。1速の前後にニュートラルがあるのが面白い。
これも、ステアリングシャフトを挟んでブレーキペダルとクラッチペダルが配置される。
前席中央部分の床に、ヒーターとスターターのノブがある。ただし現在エンジン始動は、キーを回すだけになっていた。
純正かどうかは不明だがサンバイザーも備わる。

ツェンダップとしては、ライバルBMWがイセッタで成功したのを見て、それを超えるバブルカーを作ろうとしたのだろう。かつての航空機メーカー、ドルニエに試作を依頼し、満を持してヤヌスを開発した。だが、車体サイズこそBMW 600とほぼ同じながら、搭載されるエンジンは空冷2ストローク単気筒247cc/14psと非力で、4人乗車だと動力性能はかなり辛いものだった。当然人気は芳しくなく、たった1年で生産は終了。僅か6千900台程が作られただけだった。

入佐さんはこのヤヌスのユニークさに惹かれ、5年程探していたそうだ。ただ現存台数が極端に少ない(20〜30台?)ため捜索は難航。そんな中、国内の友人のところにオランダのエージェントから売り物の情報が入り、念願叶って入手できたとのことだ。

2017年末に購入し、翌年2月に日本に来たヤヌスは、様々な部分の手直しを入佐さんの元で行っている。燃料タンクの錆落とし、ブレーキの固着解除、ヘッドライトをミニバイク用レンズとハロゲンバルブに交換、テールライトの色の変更、シートのアンコ修理、ミラーの追加などだ。こうして2019年8月に晴れてナンバーを取得した。

入佐さんによれば、「BMW 600はトルクがあって運転しやすく、ちょっとした遠出も可能です。故障もほとんどないですね」とのことだが、ヤヌスは「これで遠くまで行くのは難しいでしょう」とのこと。今回筆者は600は助手席、ヤヌスは後席に乗せていただいたのだが、600の方がボディ剛性があり、車内も静かで圧倒的に安心感があるように感じられた。ヤヌスは後ろ向きに座るという面白さは感じられるが、車内はうるさく、加速もゆるやかで、神経質そうな印象だった。

入佐さんはヤヌスでも何度かイベントに参加されたそうだが、「なんのクルマかわからずに不思議な顔をされる方が多いですね」と言われていた。とはいえ入手できたことに心から満足されているそうで、「今後はボディの塗装をやり直したいです」と、我が子を見るように目を細められていた。

フロントとほぼ同じリアビュー。小さなテールライトがフロントとの識別点。
車体中央に、空冷2ストローク単気筒250ccエンジンが搭載される。市販車初のミッドシップはルネ・ボネ・ジェットとされるが、その5年前に市販されていた。右側は燃料タンクで、車体右側面から給油する。
駆動はドライブシャフトを介してリアのデフに伝えられる。
フロントに付くエンブレム。
左フロントフェンダーの文字バッチは、入佐さんが実物から型取りしアルミで自作したもの。
タイヤはバイアスの4.40-12を装着。ホイールはキャップ付の純正スチールだが、ドラムブレーキのケースを逃がす形状(スバル360などと同様)の専用部品だ。
2ストローク・エンジンのため、チャンバー風のエキゾーストを備える。

TOPICS ない部品は作るしか!?

ない部品は作るしかないが、写真のリアブレーキ用ホイールシリンダーは、機能金具メーカー大手のムラコシ精工の会長と親しくなった入佐さんが、特別に作っていただいたもの。