LOTUS SEVEN Sr.3 1968〜オリジナルと向き合う時代

イギリス(UK) 70年代 FR ロータス(LOTUS) 60年代 スポーツカー オープンカー クラシックカー ライトウェイト 2シーター セブン
セブンが誕生してから11年の後に誕生したセブン・シリーズ3は、そのアイコニックなスタイルとともにセブンの完成形として親しまれている。50年目の節目を超えた今、ブルーの個体の滋味深い姿に、ヒストリックカーとしての資質を見る。歴史的でありながら、実用的な親しみやすさも併せ持つ。前後のモデルとは異なるシリーズ3の個性を紐解く。
TEXT:吉田拓生 PHOTO:佐藤亮太
SPECIAL THANKS:フライングスコット(https://www.flyingscott.net

人生が変わるというのは並大抵のことではない。しかも不幸にではなく幸せな方向に変わるのというのはとても難しいように思える。手っ取り早い方法はセブンを手に入れることだろう。車重が600kg以下でセブンと名の付くクルマなら何だっていい。あなたが退屈なミニバンに乗るゴールド免許の持ち主だったら、地面すれすれの穴蔵のようなコックピットに潜り込んだだけで、全身の産毛が逆立つような興奮を覚えるに違いない。

だがもし、自分のクルマ遍歴にストーリー性を持たせたいのなら、ロータス・セブンを選ぶべきだ。ブランド信仰というわけではなく、限りなく源流に近い、しかし機構的な信頼性が高まった気さくな1台だからである。

素性のいいロータス・セブン・シリーズ3あたりを手に入れて、助手席には美しい女性ではなく大き目の防水バッグに荷物を詰め込んで、まだ行ったことのない土地を巡る旅に出る。そうすればあなたの人生観は確実に変わるはずだ。

シリーズ1からシリーズ2に代替わりしたことで、レーシングカーからスポーツカーになったと言われるセブンだが、そのシリーズ2は今から半世紀ほど昔、1968年にシリーズ3へと代変わりしている。チャップマンはこの時すでに、フロントにエンジンを搭載した太古車に興味を持っていなかったが、しかし量産車メーカーとして規模の拡大を狙っていたロータスにとってセブンは欠かせない1台だった。

セブン・シリーズ3はイギリスのバックヤードスペシャルによくあるトピックをきっかけにして誕生している。大メーカーから供給されていたコンポーネンツが廃番となってしまったため、他のパーツに切り替える必要が生じたのである。シリーズ2から3への刷新は、リアアクスルが原因だった。それまで使っていたフォード10用から最新のエスコート用のアクスルに変更されたのである。これによりアクスルの耐久性が上がり、同時にリアのトレッドも12cmほど拡幅され、太いタイヤに合わせリアのフェンダーもマッシブな形状のものに切り替わった。シリーズ2譲りの四角く短いFRP製ノーズコーンと、グッとリアフェンダーを張り出したセブンは、ケータハムに受け継がれ普及したこともありロータス・セブンの完成形として記憶されているのである。

シリーズ3のロータス・セブンは製造期間が短かったこともあり、あまり数多く出回ってはいない。しかもクルマの性格上、オリジナルコンディションのクルマを探し出すことも容易ではない。10数年前であれば、シリーズ3のセブンにオリジナル性など求められなかった。元々キットカーだったセブンはオーナーが好きなようにいじって楽しむクルマという性格を帯びていたからである。だが現代において、オリジナルのスタイルを継承しているセブン・シリーズ3は立派なヒストリックカーといえるのだ。

今回撮影したブルーの個体は、愛知県岡崎市のスペシャルショップ『フライングスコット』によって組み上げられている。というのも、バブルの時代に輸入され、バラバラの状態で長らく放っておかれたクルマだったのである。だがガレージの中で眠らされていたからこそ、変にモディファイされたり、事故に遭ったりといったことがなく、セブンの純正フレームビルダーとして有名なアーチモータース製のマルチチューブラーフレームのコンディションも上々のまま生き残っていたのだ。

継続生産というかたちでロータスからケータハムに製造権が移ったセブンなので、シリーズ3と初期のケータハムは見た目による区別がほとんどつかない。だがブルーのシリーズ3は、ロータスとして乗るならこうしたいというファナティックの気持ちを具現化している。例えばアルミニウムらしさをあえて強調せず、1トーンで塗ってしまうあたりにイギリス人の気取らない様子が薫るし、オリジナルのホイールであるコーティナ・ロータス用の鉄チンも控えめでいい。リアにメッキのかかったロールバーが聳え立っていない点も、サーキットに飽きたベテランらしい風情が漂って却って新鮮に映る。

セブン・シリーズ3のコックピットからの眺めは、現行のベーシックなケータハム・セブンと変わらない。むしろ最近のケータハムは”クラシカルとは何か”というテーマを追求しはじめているから、レトロという点では現行モデルの方が懐かしいかもしれない。乗り味に関しても……と言いたいところだが、それは小さく、しかし決定的に違っている。

前述したアーチモータース製のフレームは低温のロウ付け溶接によって構成されている。ケータハムも長らくアーチモータースにフレームの製作を依頼していたのだが、近年のモデルは現代的なTIG溶接で行われている。溶接法の違いはそのままフレームの強度にも表れており、例えばクラッシュした車両の一部分をTIG溶接で直すだけで走りのバランスが崩れてしまうほどだ。

最新のケータハムは、まるで鋼管のクオリティが違うかのように、フレーム自体にモノコック的な硬さが宿り、それが現代的なラジアルタイヤとマッチングがいい。一方アーチモータース製の古いフレームのセブンはいい意味で柔らかい。その穏やかなしなりが、線の細い足まわりやクラシカルなタイヤとの調和を生み出すのである。

かつてのケータハム社や日本のセブン乗りには勢いがあり、スピードに対する探究心も強く、しかしこのクルマが持つ歴史的な価値の部分にはあまり光を当てていなかったように思う。確かにセブンを手にすれば誰だって、数年くらいは興奮が収まるはずがない。だがいよいよセブンがヒストリックカーとしての色を帯びてきた今、オリジナルの状態のセブンと向き合って、仲間と賑やかにツーリングするのではなく、ひとりで旅に出るようなそんなセブン人生があってもいい。

とはいえスマホが欠かせない現代だから、旅といってもそれほど苛酷なものにはなるまい。長い眠りから覚めたブルーのセブン・シリーズ3も、50年目の新たな旅立ちの瞬間を心待ちにしているように思えた。

人生を変える手っ取り早い方法は
セブンを手に入れることだ

60年代のイギリスにタイムスリップしたようにそっけない表情を見せるセブン・シリーズ3。メッキのホイールキャップとスチール・ホイール、クラシカルなダンロップが印象を引き締めている。

この時代の、セブンに対するチャップマンの思いも推測できるようだ。当時、セブンのディーラーだったケータハム・カーセールスが作ったものか、カタログの地図はケータハム社の場所を指している。
このロータス・セブン・シリーズ3のカタログは、シリーズ2の時代に比べむしろ素っ気ない作り。撮影車両も高性能版のロータス・ツインカム搭載車ではなく、ダウンドラフトのシングルキャブとおぼしき下位グレードに見える。