スポーツカーが快適さを身に着けた!70’sグランドツーリングカーの
夜明け

2020.06.19 フランス(FRANCE) クーペ シトロエン(CITROEN) 70年代 ハイドロニューマチック BMW ドイツ(GERMANY) マセラティ(MASERATI) GTカー 3.0CS SM
スパルタンでストイックなスポーツカーが主役だった1960年代が終わると、高性能でありながら長距離も快適に運転できる、
グランドツーリングカーの時代がやってきた。その黎明期を飾った対照的な2台とは?
TEXT:中島秀之 PHOTO:奥村純一

SPECIAL THANKS:WANNA DRIVE(3.0CS/http://www.wannadrive.net)GAISYA-YA(SM/https://gaishaya.jp

1960年代まで、スポーツカーと言えば基本的に2シーターの高性能なクルマのことを意味していた。リアにシートを持つ2+2のグランドツーリングカーも存在したが、こうしたモデルは、アストンマーティンDB系に代表されるような、超富裕層向けの高価なものが多かった。

もちろんそこまで高級でない、例えば『アルファロメオ・ジュリアGT』のようなモデルも少なくなかったが、もう少し上のクラスで、高性能かつ豪華、そして快適に運転を楽しめる2+2グランドツーリングカーを求める声が高まったのが1970年代初頭だった。

1972年12月発行の、カーグラフィック臨時増刊『73国産・輸入乗用車(二玄社)』によれば、日本に於ける輸入車の当時の販売価格は、『アストンマーティンDBS』が1250万円、『アルファロメオ2000GTV』が281万円で、『ポルシェ911』は435~665万円だった。注目すべきは、911と同程度の600万円前後の価格帯に、新しい2+2スポーツカーが目立ち始めたことだ。『ジャガーEタイプ・シリーズIII(V12エンジン)クーペ』が623~690万円、『ランボルギーニ・ウラッコ』が654万円、そして今回紹介する『BMW 3.0CS』が520万円(CSIが554万円)、『シトロエンSM』が568万円といった具合だ。

1970年代初頭に萌芽した、この手の高性能2+2グランドツーリングカーは、オイルショックを乗り越え、70年代後半には更に車種を拡大していく。ここではその代表車をご覧にいれよう。

BMW 3.0CS

まず最初にご紹介するのは、BMW 3.0CSだ。筆者の世代はこのボディのBMWを見ると、1976年のメイクス選手権でポルシェ935と熾烈な戦いを演じた、グループ5の3.5CSLをつい思い浮かべてしまうのだが、元になった3.0CSは、それまでにない優雅で高性能なグランドツーリングカーだった。戦後のBMWは、イセッタや700などの大衆車が人気を得たが、北米市場を狙ったV8エンジンの高級車シリーズは商業的に失敗で、同社の経営を圧迫していた。そのV8搭載車の最後を飾るモデルとして1962年に誕生したのが、ベルトーネ(ジウジアーロ)がデザインした美しい2ドアクーペの3200CSだったが、これも販売面は決して芳しくなかった。

ところが、1961年登場の“ノイエクラッセ”と呼ばれる1.5〜2リッターのセダンは、当時としては非常に高い基本性能を持つクルマで、大変なヒット作となり、同社の業績を一気に回復させた。そしてこの傑作車を元に、様々なバリエーションが誕生したのだった。

1965年に発表された2000C/CSはその一つで、ノイエクラッセのシャシーに、3200CSを近代化したようなデザインのクーペボディを載せ、2リッターの直4SOHCエンジンを搭載したものだ。そしてこの2000C/CSを元に、BMWが新開発した2.8リッター直6SOHCエンジンを搭載し、フロントまわりを大きく変更したものが、1968年誕生の2800CSだった。更にその排気量を3リッターに拡大して1971年に発表されたのが、3.0CSだったのである。その後電子制御燃料噴射装備の3.0CSIや、ホモロゲモデルの3.0CSL、廉価版の2.5CSを追加しながら、1978年まで生産された。

今回お借りしたのは1972年式3.0CSで、新車で日本に輸入されたディーラー車を、美しくレストアしたもの。エンジンは2基のキャブレターを持つ直6SOHC 2985ccで、180psと26.0kg-mを発揮する。

大きなドアを開け乗り込むと、黒い革張りのシートが意外にもソフトな座り心地なのに驚かされる。エンジンをかけ、マニュアルシフトを操作して走り出す。まず感じられるのは、エンジンがスムーズかつダイレクトに吹け上がること。同時代の直6SOHCであるニッサンL型は、アクセルを踏むとワンテンポ遅れてトルクが立ち上がる感じだが、こちらはアクセルの動きに即座に反応して太いトルクを立ち上げ、5000r.p.m.くらいまで一気に回る印象だ。その際嫌な振動がほとんど感じられず、実に気持ちいい。

足まわりは、思ったより柔らかめなのだが、ダンパーが効いているのか、動きがカッチリしている。また油圧のパワーステアリングのフィールが凄く自然で、やや重めながら、全く違和感なくステアリング操作が行えた。

今回は街中を少し走っただけだが、現代の路上でも十分以上の加速を見せてくれたし、ブレーキやミッションにも不安はなかった。これなら長距離でも疲れ知らずに運転できるはずだ。

従来の2000C/CSの車体に、新開発の直6エンジンを搭載し、高性能と快適性を高い次元で両立。その後のBMWの方向性を示した。繊細な印象のクーペボディは、ガラス面積が大きい上にセンターピラーレスで、リアから見た姿も美しい。
30度傾けて搭載される3リッター直6SOHCエンジン。3.0CSの場合、ツインキャブレター装備で180psを発揮する。
ウッドが貼られたインパネは、2000C/CSのものをほぼ踏襲している。ステアリングはナルディのウッドに交換。
メーターは左から、燃料と水温、回転系、時計の順で並ぶ。シンプルで見やすい配列。
ペダルはアクセルのみオルガン式。不思議なのは、そのアクセルペダルの上にジョイントがあり、運転中にペダルではなくそのジョイントを踏んでしまいがちになることだ。
左のドア部分の内側支柱に、コーチワークを担当していたカルマン社のプレートが残っていた。
厚みのあるクッションのお陰で、シートは思ったより柔らかめで座り心地がいい。前席のヘッドレストはかなりゴツい。シートベルトは床から伸びる変則3点式。
後席は小柄な女性か子供なら、長距離でも問題なさそうな印象。こちらにも3点式ベルトが装備される。
現車は4速M/T。ウッドのシフトノブは交換されたもの。
長くBMW車のアイコンだった丸型4灯ヘッドライト。現車はボッシュのH4タイプを装着していた。
リアまわりはテールランプを含めて、先代2000C/CSのものを流用。小ぶりで横長のテールランプは、このクルマの繊細な雰囲気によく似合う。
歴代BMW製クーペで踏襲された、細くて根本部分が三角形のようになったCピラー。BMWマークにはメッキリングが追加される。
センターキャップ付の純正軽合金ホイールを装着。タイヤは195/70R14のミシュラン・エナジーセイバーを装着。
トランクは床面に仕切り板が置かれ、全体にカバーされた美しい状態。

TOPICS 01 流麗なデザインの
歴代BMWクーペ

1962年登場の3200CSはV8エンジン搭載。ピラーが細く美しい。
1965年登場の2000C/CSは直4でヘッドライトが個性的。
1977年登場の初代6シリーズはボディが大きくなり近代化。エンジンは直6SOHCまたはDOHCの2.8~3.5リッター。

TOPICS 02 モータースポーツでも大活躍

アルピナ、シュニッツァーなどにより2800/3.0CSはツーリングカー・レースで活躍。軽量ボディの3.0CSL(左)がホモロゲモデルとして市販されると、更に好成績を残した。また1976年には、グループ5の3.5CSL(3.5リッターDOHC 24V)(右)が、ポルシェ935とメイクス選手権で激しく王座を争った。

SPECIFICATION
BMW 3.0CS
全長×全幅×全高:4660×1670×1370mm
ホイールベース:2625mm
トレッド(F/R):1446/1402mm
エンジン形式:直列6気筒SOHC+2キャブレター
総排気量:2985cc

最高出力:180ps/6000r.p.m.
最大トルク:26.0kg-m/3700r.p.m.
車両重量:1400kg
サスペンション(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
ブレーキ(F&R):ディスク
タイヤ(F&R):195/70R14

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