長年に渡って愛され続けたのは
シンプルでベーシックだから!

<ENJOY HISTORIC CARS!>

空冷ビートル65年にわたる熟成の極地 VOLKSWAGEN BEETLE

最後はビートルだ。実は今回紹介した順番は生産台数が少ない順でもある。2000万台以上を記録したビートルが世界一であることは多くの読者が知っているだろう。

それを証明するように、基本設計はもっとも古いのに、取材車は2003年式でもっとも新しい。本国で生産が終わった後、メキシコで長く作られたというストーリーは、イタリアからポーランドに生産が移管された126に通じるところがある。

見た目は紛れもないかぶと虫スタイル。この形で21世紀まで生き続けたことが奇跡だし、他の3台とは違う種類の親しみやすさが持てる。

硬質なドアの閉まり音はドイツ車そのもの。インテリアはインパネの奥行きがほとんどなく、平面のフロントウインドウは立っていて、床から生えたペダルにポジションを合わせると、ステアリングは体に近く、逆に直立したシフトレバーはやや遠く感じる。インパネは黒い樹脂で覆われ、ライトスイッチはゴルフIIのような角形になったものの、メーターは丸型ひとつだけ。それでも不自由はない。

パッケージングは前席優先。これまたドイツ車らしく固いシートに体を乗せ、エンジンに火を入れる。今回の4台はいずれもモデルライフの中で最大の排気量を持つ。ビートルは1.6リッターだ。アイドリングは意外に静かだが走り出すとバサバサッという独特のサウンドが後方から届いてくる。レスポンスは穏やかだが力には余裕があって、排気量なりのゆとりを感じる。

エンジンと同じぐらい特徴的なのはトランスミッションで、各ギアが離れており、トップの4速は完全な高速巡航用。これでも西ドイツ製に比べればローギアードになったそうだが、この時代のベーシックカーで高速道路を考えていたところがさすがだ。各ギアの守備範囲が決まっていて、運転の作法を学べるところも面白い。

乗り心地はサスペンションがよく動いてショックを吸収してくれるという印象。これも剛性の高いボディのおかげだろう。動き出せば軽いステアリングもまた剛性感にあふれていて、作りの良さを実感する。

足が動くわりにコーナーでのロールは小さく、立ち上がりでアクセルペダルを踏み込んでいくと積極的に回り込んでいくというリアエンジンらしさを積極的に楽しむことができる。そしてブレーキがまたよく効く。このあたりも高速巡航を念頭に置いた設計であることがわかる。

ビートルに乗っていつも感じるのは、親しみやすいキャラクターを持っていながら機械としての完成度が高く、戦前生まれとは思えない実用性を持ち合わせていることだ。愛らしい姿の中に、フェルディナント・ポルシェ博士の高度な設計思想が宿っていて、独特の世界を作り出している。

ただし残りの3台も、今の道で問題なく使える。126だけはクーラーがつかないものの、ロングセラーの高年式ということで、素晴らしい基本設計はそのままに各部が改良され、エンジンは余裕が加わっていたので、いい意味で楽に楽しめた。源流を追い求めるのも面白いけれど、このあたりの年式で気軽にヒストリックカーを味わうのもまたいいものだ。

メキシコ製はバンパーやヘッドライトリムがペイントされるのが標準だが、撮影車はクロームパーツに変更され、クラシカルなテイストとしている。
メキシコ製のビートルは全車インジェクションを採用。撮影車両の1600ccフラット4ユニットにはROMチューンが施され76psまで引き上げられている。
コクピットのレイアウトは基本的にドイツ生産時代のものに準じるが、パッドが全体に貼られる。ステアリングはメキシコ用2スポークスタイル。
シンプルな速度計の内側に燃料計。これもドイツ時代から継承。
運転席と助手席に吹き出し口の備わった、VW純正クーラーが備わる。
シートは1970年代のドイツ製ビートルスタイルを再現したカバーに交換済みだ。
シートバックの全長は短めだが、リアシートも大人が乗れるスペースを確保する。
ビートルといえば三角窓。換気だけでなくフロントガラスの曇り取りにも活躍する。
フロントフードの下にはスペアタイヤとラゲッジルーム。
フロントはディスクブレーキが標準装備。タイヤはFirestoneのF-560 165R15を装着。

SPECIFICATION
VOLKSWAGEN TYPE1
全長×全幅×全高:4060×1550×1505mm
ホイールベース:2400mm
トレッド(F/R):1310/1315mm
車両重量:830kg

エンジン:空冷水平対向4気筒
総排気量:1585cc
最高出力:46ps/4000r.p.m.
最大トルク:10.0kg-m/2200r.p.m.
サスペンション(F/R):トレーリングアーム+トーションバー/スイングアーム+トーションバー
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤ(F&R):155/80R15

TOPICS

VW30 Prototype
ドイツの国家プロジェクトとして国民車(フォルクスワーゲン)の開発を進めたポルシェ博士。1937年のプロトタイプ”VW30″では、すでにほとんど完成の域に達していた。
Type 82e
第二次世界大戦の勃発により国民車の生産は凍結され、そのための工場は軍事用車両をドイツ敗戦まで生産することとなった。この1943年式タイプ82eは『FLAT4』のコレクション。
Type 1(50’s)
戦後まもなく、民主主義ドイツ復興の要としてVWの生産がスタート。1947年にはオランダへの輸出を開始している。写真の1955年式は楕円形のリアウインドウが特徴だ。
Type 1(60’s)
1960年代に入ると北米市場でVW が大ヒット。ビートルは毎年少しずつ改良が加えられ、写真の1965年式ではフロントウインドウが少し拡大していて、リアウインドウはスクエアな形状となっている。
Type 1(12V)
1967年式を機に電装系が12V化され、ヘッドライトが直立したスタイルとなった。写真は1974年に発売された特別仕様『ジーンズ・ビートル』。
Type 1 1302/1303
1970年にストラットサスペンションを備えた1302が登場し、73年にはフロントウインドウが丸い1303(写真)に進化。従来のトーションバー仕様と併売された。

PROFILE

森口将之

新旧問わずあらゆるモビリティに精通するモータージャーナリスト。最近は次世代型モビリティについて世界各国を積極的に取材する一方で、ヒストリックカーの持つ魅力を多方面に発信し続けている。

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