ラリーのヒーローは
今も輝き続けていた!

<FRENCH CARS>

そして最後の1台は、見たことがあるどころか知っている人もほとんどいない激レアマシン、『シトロエンBX 4TC』である。WRCに3戦しか出場せずに撤退してしまった、シトロエンにとっても暗黒の歴史の1台である。しかし最近のWRCでの活躍からすれば、シトロエン・レーシングの歴史として再考証を考えるべきだろう、と勝手に思う。

マシンコンセプト自体の志は非常に高かったのだと思う。まずは既存の4シーターサルーン・ボディをそのまま使い、マシン開発のコストパフォーマンスを上げようとした。そして量産車からのフィードバックであるハイドロニューマチックサスペンションを利用し、路面に合わせて車高を自在に変えてタイムを削ろうとしたのだ。今で言う『アクティブサスペンション』のような考え方だ。パワーステアリングにしても快適装備はドライバーの疲労軽減につながり、これまたタイムアップにつながるという人間工学的なところまで考えられていた。

しかしBX 4TCは今回試乗した3台の中でただ1台、チュリニ峠まで辿り着けなかった。悲劇のマシンの未来を暗示していたのかもしれない。

だが今、目の前でアイドリングする元気なマシンが存在するという素晴らしい現実がそこにはあった。

フカフカのシートに、一目では全く理解できない電装系スイッチが並ぶ独特のデザインのメーターパネル。そこは不思議なオーラで包まれていた。

エンジンは中速回転域でちょっとバラついてしまうので、フル加速のパワーフィールはわからないところがあるが、ターボラグは小さく、高回転域でも滑らかな回り方を示し、パワフルさは感じる。

シフトは通常の左上が1速のHパターンの5速M/Tではあるが、このHの文字は一筋縄ではいかない。1、3、5といった上半分にあるギヤのシフトゲートが末広がりに開いたHで、イメージとしてはWにシフトレバーを動かす感じなのだ。

ステアリングはこれほど操舵感の無い軽さは経験したことがない、といったフィールである。どこまでもクルクル回ってしまいそうな頼りなさだが、ノーズはグイグイ切れ込んでいき、不思議なコーナリングを見せる。そういった意味では操舵感は薄いがフロントタイヤの追従性はいい。ちなみにステアリングから手を離すと自動的に中立を目指すセルフセンタリング機構が付いていてクルマは勝手に直進しようとする。これはラリー走行で効果的? ま、関係ないだろうな。

通常走行はFFだが、パートタイム4WDなのでレバー操作で簡単に4WDに切り替えられる。コーナリング中クルクルと回っていたステアリングは、大きく切り込むと手応えが出てきた。これはブレーキング現象が出て抵抗になっているのだ。しかしこの方がなんとなく操舵感があるようで、4WDの安定を感じることができた。だがグリップの高い舗装ヘアピンではかなり強いアンダーステアになるだろう。

快適でソフトタッチなマシンなのだが、ブレーキはレーシングマシン同様のカチッとしたスパルタンなものだ。

このようにBX 4TCは、やはりハイドロニューマチックによる特徴が随所に現れる独特なマシンと言えるだろう。

しかし“アクティブ”サスペンションの本領が発揮されるはずだった、ラフな路面のアクロポリスラリーでサスペンショントラブルによりリタイアしてしまったのは皮肉な結果である。そしてそれ以来シトロエンBX 4TCはラリーフィールドに二度と現れなかった。

三車三様の独特の味を持つラリーベースマシンに乗ることができて幸せだった。まさにWRCの歴史を繋いできたマシンをドライブしている時、オイラの心はマシンと共にチュリニを攻めていた!

シトロエンBX 4TC CITROËN BX 4TC

左右に大きく張り出したブリスターフェンダーと、長いフロントオーバーハングが特徴的なルックス。
インパネの形状は初期型のBXと同じだが、メーター内にはギッシリと7つの計器が収められている。
後に登場するGTiと同じフロントシートが装着されていた。乗り心地は快適で実用性が高い。
ベース車は横置きのFFだが、4TCは4WD化に伴い縦置きへと変更。プジョー505用をベースとした2.1リッターのターボエンジンを搭載する。
4WD化に伴いラゲッジルームは通常より浅い。スペアタイヤが上面に置かれている。
CXターボに装着されていた「T」を象ったディッシュタイプのホイールに、前後共に210/55VR390のタイヤを装着する。

TOPICS WRC参戦はわずか3戦のみ
幻のマシンとなった

WRCへ投入されたBX4TCエヴォリューションは、ラジエターを後方に移動し、巨大なリアウイングを備えた。最高出力は380psを発生したモンスターマシンだった。1986年のモンテカルロ、スウェディッシュ、アクロポリスの3戦のみに出場し、完走は僅か1回で6位に入賞したのが最高位。しかし、シーズン途中でプロジェクトは中止されそのまま姿を消した。

SPECIFICATION
CITROËN BX 4TC
全長×全幅×全高:4512×1830×-mm
ホイールベース:2612mm
トレッド(F&R):1430mm
車両重量:1280kg

エンジン:直列4気筒SOHCターボ
総排気量:2141cc
最高出力:200ps/5250r.p.m.
最大トルク:30.0kg-m/2750r.p.m.
サスペンション(F&R):ダブルウィッシュボーン
タイヤ(F&R):210/55VR390

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